ドキュメンタリー・教養
NHK BSプレミアム 2013年01月23日(水) 22:00~22:44
2000年、連続テレビ小説「オードリー」で女優デビューして以来、テレビドラマ、映画を中心に活躍する戸田恵梨香(24)。一本気、曲がったことが嫌い、芝居に妥協はしない・・・。役柄に合わせ鮮やかに表情を変える演技には、彼女の強くて息苦しいほどの覚悟がある。
「私は何のためにお芝居をやっているのか。どれだけ一生懸命やっても、これでいいのか自信が持てない自分がいる」。そんな不安に打ち勝つために、女優として続けて来た努力。しかし、彼女に対する周りの評価が高まってもなお、自分自身を肯定することができずにいた。
2012年8月、戸田はNHKドラマ初主演のオファーを受けた。彼女が演じるのは、「どこにでもいる普通の女の子」。個性的な役の多かった戸田にとって、今まで演じたことのない役柄への挑戦だった。そして彼女には、演じる前に行っておきたい場所があった。
真っ直ぐにしか生きられない24歳、戸田恵梨香の梨香の素顔に迫る。
<前編>
■ミャンマーで働く医師、吉岡さんに会いたい
戸田の生きて来た背景にあるのが、6歳で経験した阪神大震災。戸田は神戸市灘区出身。彼女自身、家具の下敷きになるところを、父親が身を挺(てい)して九死に一生を得た。以来戸田は「生」と「死」を常に心のどこかに抱えてきた。だが、昨年の東日本大震災。多くの著名人がチャリティに励む中、彼女は「生半可(なまはんか)な優しさが役に立つのか?」、そんな思いに、心の整理がつかなかった。その戸田が、HIV・貧困のまん延するミャンマーで、日本人医師が、懸命に命を救おうとする姿をテレビで見た。「何ができるか考え込むより、飛び込んでみろ」。まず自分が喜びを感じるから援助する。そのシンプルな姿勢が心に刺さった。戸田は一路、ミャンマーへ向かう。
■吉岡医師の手術に立ち会い、命を見つめる
戸田がミャンマーで出会ったのは、医師・吉岡秀人(46歳)。貧しい人々のために無料で診療を行っている。吉岡は大阪生まれ。彼自身も、阪神大震災を経験している。30代で、医師としての喜びはどこにあるのかに悩み、ミャンマーに人生を捧げる決意をした。戸田は吉岡の病院で子どもたちの手術に立ち会う。薬も設備もままならない状況の中で、吉岡はメスを握り、子どもたちは痛みに耐えて手術を乗り越える。「誰かを助けるということは、その事実と向き合うことから始まる」と、吉岡に教えられた。
「私は色んなことから逃げて来た。逃げ回って、自分も、他人も見つめようとしてこなかった」。今まで抱いてきた自分への「不信感」。女優として、このままでいいのかといつも問い続けて来た。吉岡の思いと、人々が直面している現実を通して、戸田は少しずつ変化を遂げて行く。
■HIV感染者の子どもたちを連れて孤児院へ
戸田は、HIV感染者が蔓延しているミャンマーの山間部に向かった。最大の問題は子どもたち。「自分が死んだらこの子はどうなるのか?」。ただでさえ貧しい状況。HIVに感染している親は、死んでも死にきれない思いだ。戸田はボランティアの一員として、そのような親の子や、貧しくて生活の立ち行かない子どもたちを吉岡の孤児院に引き取る。
悲しそうに見送る親たち。離れたくないと泣く子どもたち。望まないのに離れなければならない故郷がある。離れたくなくても離れ離れになる家族がいる。戸田の胸に、「家族」そして「故郷」という言葉が突き刺さる。